緒 言
球技スポーツは,ローパワー運動を連続的に持続するのではなく,ダッシュやジャンプなどの数秒から数十秒のハイパワー運動を,ランニングなどの数秒から数十秒のローパワー運動を挟んで,不完全回復の状態で数十分から数時間,間欠的に反復するという競技特性を持つ.したがって,球技スポーツの競技力を構成する一要素としての「特殊持久力」1)は,マラソンのようなローパワー運動を連続的に持続する「連続的運動の持久力」ではなく,ハイパワー運動を間欠的に持続する「間欠的運動の持久力」という専門性を有する.
しかし,球技スポーツの持久力に関する研究は,主に連続的運動を用いて,VO2maxやATのような生理学的な指標,あるいは1500m走や12分間走などのパフォーマンスを指標とすることによって進められてきた.球技における専門的体力は,プレーの諸要求に応じて,その特徴を明確に表すような運動形態において検討されなければならない.したがって,球技スポーツの競技特性に沿ったかたちで持久力を研究するためには,連続的運動のみではなく,競技特性に類似した間欠的運動も用いることが適切であると考えられる.
一方,これまで間欠的運動に関する研究は数多く行われてきたが,その大部分は,間欠的運動中における代謝過程の解明に関する研究,あるいは間欠的運動をトレーニング手段として用いた場合のトレーニング効果とその生理学的根拠に関する研究であった.これに対して,山本らは,ペダリング運動を用いて間欠的に発揮されるハイパワーと,有気的作業能力と無気的作業能力の優劣との関係について検討している.しかし,間欠的なハイパワー発揮能力の優劣を,ATP-CP系,乳酸系,有酸素系のエネルギー産生能力の優劣と関連づけた研究は少ない.球技スポーツの特殊持久力である間欠的なハイパワー発揮能力は,3種のエネルギー産生能力が相互に関連し合って発揮される総合的な能力である.したがって,球技スポーツにおける特殊持久力に関する研究においては,3種のエネルギー産生能力をそれぞれ個別な研究対象とするのではなく,その関係性に着目する必要があると考えられる.また,間欠的運動に関するこれまでの研究は,ハイパワー運動と安静休息とを組み合わせたものが多く,しかもその大部分はラボラトリーテストによるものである.これらは,運動時間や運動様式という観点からみて,実際の球技スポーツの競技特性とは若干異なるものである.
そこで本研究では,ラボラトリーテストに加えて,球技スポーツの運動様式を考慮したフィールドテストを用いて,間欠的なハイパワー発揮能力と3種のエネルギー産生能力との関係について検討した.
方 法
A.実験1.ペダリング運動による場合
1.被験者
被験者には,大学男子ハンドボール部員19名(年齢20.1±1.2歳,身長177.4±7.2cm,体重69.6±7.6kg)を用いた.
2.測定項目および測定方法
1)エネルギー産生能力の測定
本研究では,ラボラトリーテストとフィールドテストともに,Howaldら15)による運動の所要時間とエネルギー系の動員との関係を基準にして,各エネルギー産生能力の指標を作成した.
ATP-CP系のエネルギー産生能力の指標として, 7秒間の全力ペダリング運動を,体重×0.08kpの負荷で行わせた際の体重当りの最大パワー(Max-P/BW)を測定した.乳酸系のエネルギー産生能力の指標として,Bar-Orら16)の研究を参考にして30秒間の全力ペダリング運動を,体重×0.08kpの負荷で行わせた際の体重当りの平均パワー(Mean-P/BW)を測定した.
有酸素系のエネルギー産生能力の一つの指標として,負荷漸増法によるペダリング運動を,60rpmでオールアウトに至るまで行わせた際の体重当りの最大酸素摂取量(VO2max/BW)を測定した.
また,本研究では,有酸素系のエネルギー産生能力のもう一つの指標として,体重×0.03kp×60rpmの負荷での最大下ペダリング運動を,20分間行わせた際の運動中3,9,15分目の血中乳酸濃度を測定し,その平均値(Mean-LA)を用いた.このMean-LAは,次の2)で示すインターバルテスト1のローパワー運動だけを,インターバルテスト1と同様に20分間連続的に行った際の血中乳酸濃度を評価する指標でもある.
2)間欠的なハイパワー発揮能力の測定
間欠的なハイパワー発揮能力を測定するためにインターバルテスト1を作成した(図1).このテストでは,ハイパワー運動として1)で用いた体重×0.08kpでの7秒間の全力ペダリング運動を行わせた.また,ローパワー運動として,1)で用いた体重×0.03kp×60rpmの負荷での最大下ペダリング運動を45秒間行わせた.インターバルテスト1では,負荷設定変更のためのつなぎの8秒を含めて1セット60秒として,これを20セット,計20分間行わせた。
間欠的なハイパワー発揮能力の指標としては,各セットで行った7秒間の全力ペダリング運動中に発揮された体重当たりの最大パワー(Peak-P/BW)を測定した.
また,2,5,8,11,14,17,20セット目のローパワー運動中に体重当りの酸素摂取量(VO2/BW),3,9,15セット目のローパワー運動中に血中乳酸濃度(LA)を測定した.さらに20セット全体にわたり心拍数(HR)を測定した.
運動負荷装置には,トルク制御が任意に設定できるハイパワー自転車型エルゴメーター(竹井機器社製TKK1254a)を用いた.自転車エルゴメーターから出力した信号を,ADコンバーターを介して10msec毎にコンピュータに取り込んだ.
心拍数は,胸部双極誘導法により測定した.酸素摂取量は,ダグラスバッグ法により測定した.また,血中乳酸濃度は,指尖から採血した血液サンプルを自動血中乳酸分析器(YSI社製MODEL23L)により分析した.
B.実験2.方向変換走による場合
1.被験者
被験者には,大学男子バスケットボール部員23名(年齢20.5±1.1歳,身長178.2±9.9cm,体重72.9±9.1kg)を用いた.
2.測定項目および測定方法
1)エネルギー産生能力の測定
ATP-CP系のエネルギー産生能力の指標として,25m方向変換走5) (図2下段左側参照)を行わせた際の平均速度(Max-V(25ch))を測定した. 25m方向変換走は,約6秒で終了するので,ATP-CP系のエネルギー産生能力を表す指標とみなした.乳酸系のエネルギー産生能力の一つの指標として,25mの方向変換走を連続10周行う運動時間約60秒の250m方向変換走5)を行わせた際の平均速度(V(250ch))を測定した.また,250m方向変換走における最後の2周50mと最初の2周50mの平均速度の比(V(250ch-L50/F50))を算出し,走速度の低下率を表す指標とした.
有酸素系のエネルギー産生能力の指標として,最大酸素摂取量と有意な相関関係があると報告されているMulti stage fitness testを行わせ,Paliczkaらと同様に,オールアウトに至った時点までに完走した総シャトル数(Multi)を測定した.
2)間欠的なハイパワー発揮能力の測定
間欠的なハイパワー発揮能力を測定するために,インターバルテスト2および3を作成した(図2).これらのテストでは,ハイパワー運動として1)で用いた25m方向変換走を行わせた.また,ローパワー運動として,20mの間隔を往復するシャトルランを行わせた.走速度は,片道約6.5秒で往復できる3.08m/secに設定した.インターバルテスト2,3ともに,ハイパワー運動とローパワー運動を1セットとして,これを20セット行わせた.ただし,ローパワー運動のシャトルランをテスト2では4往復,テスト3では1往復行わせたので,つなぎの時間を含めて,テスト2が1セット60秒,テスト3が1セット21秒,総運動時間は,テスト2が20分,テスト3が7分であった.
間欠的なハイパワー発揮能力の指標としては,各セットで行った25m方向変換走の平均速度(V(25ch))を測定した。
上述の1)2)の各測定項目におけるタイムの測定には,ストップウォッチ3個を用い,3つの測定値の中で近似する2つの測定値を平均し,これを代表値とした.インターバルテスト2,3および25mと250mの方向変換走は体育館において測定を行った.
C.統計処理
測定値は,平均値±標準偏差で示した.インターバルテストの各セットにおけるハイパワー運動の成績とその運動中の生理学的応答および3種のエネルギー産生能力の指標との相関係数の算出には,Pearsonの積率相関分析を用いた.インターバルテストの成績を,各指標毎に優れる群と劣る群間で比較するために,各指標を標準得点(T-score=50+10(個人の測定値-平均値)/標準偏差)に変換し,被験者を各指標毎に50点以上の優れる群と,50点未満の劣る群の2群に分けた.ただし,Mean-LAについては血中乳酸濃度が低い群を能力に優れる群とみなした.各指標によって分けられた両群間には,他の指標の優劣に有意差が認められなかったために,その一つの指標のみに特異的に差のある2群とみなした.2群間の有意差検定には,Studentのunpaired t-testを用いた.なお,統計処理の有意性は,危険率5%未満で判定した.
結 果
A.ペダリング運動による場合
1.エネルギー産生能力
ATP-CP系,乳酸系および有酸素系のエネルギー産生能力の指標に用いたMax-P/BW,Mean-P/BW,およびVO2max/BWとMean-LAの平均値および標準偏差は,順に11.96±0.61 watt/kg,7.96±0.61 watt/kg,54.4±4.3 ml/kg/min,2.9±1.2 mmol/lであった.これらの指標に用いた4項目間の相関係数は,-0.398から+0.329の範囲内にあり,いずれも有意な相関関係は認められなかった.
2.間欠的なハイパワー発揮能力
図3に,インターバルテスト1(20分間)におけるPeak-P/BWおよび生理学的な測定値の変化を示した.
Peak-P/BWは,1セット目に11.42±0.70watt/kg(95.8±5.0%Max-P/BW)の値を示し,その後は18セット目まで徐々に低下した.
VO2/BWは,20セットを通じて,ほぼ40~45ml/kg/min(70~80%VO2max)の範囲内にあった.
HRは,ハイパワー運動による上昇と,ローパワー運動による低下を繰り返しながら徐々に増加し,6セット終了後に171.6±11.2beats/minに達した後は,20セットまでほぼ一定の値を維持した.なお,セット数が進むにつれて,ローパワー運動による心拍数の低下は小さくなった.
LAは,セット数が進むにつれて徐々に増加し,15セット目に8.7±2.1mmol/lに達した.
3.間欠的なハイパワー発揮能力とその運動中における生理学的な測定値との関係
図4に,インターバルテスト1におけるPeak-P/BWと,その運動中の生理学的な測定値との相関係数の変化を示した.
Peak-P/BWとVO2/BWおよび%VO2maxとの相関係数は,いずれもセット数が進むにつれて大きくなり,中盤以降において有意な正の相関関係が認められた.
Peak-P/BWと運動前および運動後の心拍数との間には,3セット目以降に負の相関関係が認められた.また,ローパワー運動中における心拍数の低下(ハイパワー運動直後と次のハイパワー運動直前との差)との間には,正の相関関係が認められた.相関係数はセット数が進むにつれて徐々に大きくなった.
Peak-P/BWとLAとの間には,8セット目に有意な負の相関関係が認められた.
4.間欠的なハイパワー発揮能力と3種のエネルギー産生能力との関係
図5に,インターバルテスト1におけるPeak-P/BWと,個別に測定した各エネルギー産生能力の指標との相関係数の変化を示した.
Peak-P/BWとMax-P/BWとの間には,前半の数セットにおいて有意な正の相関関係が認められたが,その値はセット数が進むにつれて徐々に小さくなり,一部を除いて有意な相関関係は認められなくなった.
Peak-P/BWとMean-P/BWとの間には,20セットを通じて有意な相関関係は認められなかった.
Peak-P/BWとVO2max/BWとの相関係数は,セット数が進むにつれて徐々に大きくなり,16,17セット目には有意な正の相関関係が認められた.また,Peak-P/BWとMean-LAとの間には,20セットを通じて負の相関関係が認められた.そして,相関係数は,5セット目まではセット数が進むにつれて小さくなり,その後はほぼ一定の値を示した. また,3セット目からは有意な負の相関関係が認められた.
5.エネルギー産生能力に優れる群と劣る群との間欠的なハイパワー発揮能力の比較
図6に,4つの指標毎に分けた2群のインターバルテスト1の結果を示した.
Max-P/BWに優れる群は劣る群に比較して,1セット目のみに有意に高いPeak-P/BWを示した.
Mean-P/BWに優れる群は劣る群に比較して,2セット目以降において低いPeak-P/BWを示す傾向が認められた.
VO2max/BWに優れる群は劣る群に比較して,中盤以降において高いPeak-P/BWを示す傾向が認められた.また,VO2/BWは,優れる群が劣る群に比較して高い値を示す傾向が認められたが,逆に%VO2maxは劣る群が高い値を示す傾向が認められ,8,20セット目においては両群間に有意差が認められた.
Mean-LAに優れる群は劣る群に比較して,4セット目以降において有意に高いPeak-P/BWを示した.VO2/BWと%VO2maxは,いずれも優れる群が劣る群に比較して高い値を示す傾向が認められた.
B.方向変換走による場合
1.エネルギー産生能力
ATP-CP系,乳酸系および有酸素系のエネルギー産生能力の指標に用いたMax-V(25ch),V(250ch)とV(250ch-L50/F50),およびMultiの平均値および標準偏差は,順に4.61±0.14 m/sec,3.89±0.14 m/sec,85.6±5.1 %,139.6±16.2 shuttlesであった.これらの指標に用いた4項目間の相関係数は,V(250ch)とV(250ch-L50/F50)との間(r=0.592,p<0.05)を除くと,0.056から0.447の範囲内にあり,いずれも有意な相関関係は認められなかった.
2.間欠的なハイパワー発揮能力
図7に,インターバルテスト2(20分間)および3(7分間)におけるV(25ch)の変化を示した.
V(25ch)は,1セット目にテスト2では4.55±0.16m/sec(98.8±2.1%Max-V(25ch),テスト3では4.52±0.18m/sec(98.1±2.1%)の値を示した.2セット目以降は両テストともに徐々に低下したが,テスト2がテスト3よりも有意に高い値であった.
3.間欠的なハイパワー発揮能力と3種のエネルギー産生能力との関係
図8に,インターバルテスト2および3におけるV(25ch)と,個別に測定した各エネルギー産生能力の指標との相関係数の変化を示した.
テスト2の結果をみると,V(25ch)とMax-V(25ch)との相関係数は,セット数が進むにつれて徐々に小さくなり,10セット目まで有意な正の相関関係が認められた.逆に, V(25ch)とMultiとの相関係数は,セット数が進むにつれて徐々に大きくなり,5セット目以降において有意な正の相関関係が認められた.V(25ch)とV(250ch)との間には,9,10セット目においてのみ有意な正の相関関係が認められた.また,V(25ch)とV(250ch-L50/F50)との相関係数は,セット数が進むにつれて徐々に大きくなる傾向が認められ,10,12および13セット目において有意な正の相関関係が認められた.
一方,ローパワー運動の時間の短いテスト3では,テスト2よりも前半数セットにおけるMultiとの相関係数が大きく,Max-V(25ch)との相関係数が小さい傾向が認められた.また, V(25ch)とV(250-L50/F50)との相関係数が,前半の数セットと後半の数セットにおいて大きい値を示す傾向が認められた.
4.エネルギー産生能力に優れる群と劣る群との間欠的なハイパワー発揮能力の比較
図9に,4つの指標毎に分けた2群のインターバルテスト3におけるV(25ch)の変化を示した.
Max-V(25ch)に優れる群は劣る群よりも,運動の初期に高いV(25ch)を示す傾向が認められ,1,2および7セット目においては両群間に有意差が認められた.
V(250ch)に優れる群は劣る群よりも,4セット目以降において低いV(25ch)を示す傾向が認められた.また,V(250ch-L50/F50)に優れる群は劣る群よりも,3セット目以降において高いV(25ch)を示す傾向が認められ,18および19セット目においては両群間に有意差が認められた.
Multiに優れる群は劣る群よりも,2セット目以降において有意に高いV(25ch)を示した.
ローパワー運動の時間の長いインターバルテスト2においても,上述したインターバルテスト3とほぼ同様の結果を示した.
考 察
競技スポーツにおける「持久力」のトレーニングを行う場合には,先ず,その競技種目特有の持久力に影響を及ぼす要因を明確にすることが重要である.本研究では,球技スポーツに特有の持久力と考えられる間欠的なハイパワー発揮能力と3種のエネルギー産生能力との関係について検討した.テストには,自転車エルゴメーターを用いたラボラトリーテストに加えて,トレーニング場面で簡便に行える方向変換走を用いたフィールドテストを行った.
間欠的運動においては,運動中に分解されたATPおよびPCrが,休息中に有酸素系のエネルギー供給機構の働きによって再合成され,次の運動期のエネルギー源として利用される.山本らは,安静休息を挟んで間欠的に発揮されたハイパワーと,個別に測定した3種のエネルギー産生能力の指標との相関係数を算出した結果,ATP-CP系のエネルギー産生能力の指標との相関係数は,運動の開始数セットのみに大きい値を示すが,その値はセット数が進むにつれた小さくなることを報告している.休息期にローパワー運動を用いた本研究においても,ラボラトリーテストとフィールドテストのいずれの場合も,間欠的に発揮されたハイパワーとATP-CP系のエネルギー産生能力の指標との相関係数は,前半の数セットで大きく,セット数が進むにつれて徐々に小さくなった(図5,8).また,一つのエネルギー産生能力のみに差が生じるように被験者を2群に分けて,間欠的に発揮されたハイパワーを比較した結果,ATP-CP系のエネルギー産生能力に優れる群は劣る群よりも,前半の数セットにおいて有意に高い成績を示したが,両群間の差はセット数が進むにつれて徐々に小さくなる傾向が認められた(図6,9).これらのことは,ATP-CP系のエネルギー産生能力は運動開始後の数セットにおける発揮パワーの優劣を左右する重要な要因になるが,その影響はセット数が進むにつれて徐々に小さくなることを示唆するものである.
これに対して,間欠的に発揮されたハイパワーと有酸素系のエネルギー産生能力の指標との相関関係は,前半で小さくセット数が進むにつれて徐々に大きくなった(図5,8).また,有酸素系のエネルギー産生能力に優れる群は劣る群よりも,2~3セット目以降において高い成績を示し,両群間の差はセット数が進むにつれて徐々に大きくなる傾向が認められた(図6,9).また,休息期の時間が短くなるほど,間欠的に発揮されたハイパワーとATP-CP系のエネルギー産生能力の指標との相関関係は小さくなり,逆に有酸素系のエネルギー産生能力の指標との相関関係は大きくなる傾向が認められた(図8).
山本ら13)は,このように有酸素系のエネルギー産生能力が間欠的なハイパワー発揮能力に大きな影響を及ぼすメカニズムとして,次の2つをあげている.一つは,運動期のエネルギー供給という直接的影響であり,他の一つは回復期にATPおよびPCrを再合成するという間接的影響である.直接的影響に関しては,Gaitanosらが,30秒間の休息を挟んだ6秒間の全力ペダリング運動を10セット行わせた際の筋バイオプシーの結果から,10セット目のペダリング運動では,有酸素系からのエネルギー供給が増大していることを報告していることからも裏付けられる.
本研究では,インターバルテストにおけるハイパワー運動中に酸素摂取量を測定していないために,運動期における有酸素系からのエネルギー供給の直接的影響について言及することはできない.しかし,休息期における間接的影響については,インターバルテスト1のPeak-P/BWと,ローパワー運動中のVO2/BWとの間に,7セット目以降有意な正の相関関係が認められた(図4).また,有酸素系のエネルギー産生能力の指標としたVO2max/BWとMean-LAに優れる群は,いずれもローパワー運動中に高いVO2/BWを示す傾向が認められた(図6).これらのことは,有酸素系のエネルギー産生能力によるATPおよびPCrの再合成という間接的影響の重要性を裏付けるものであると考えられる.
一方,インターバルテスト1のPeak-P/BWと,その運動中のLAとの間には負の相関関係が認められた(図4).また,VO2max/BWとMean-LAに優れる群は,いずれも間欠的運動中に低い血中乳酸濃度を示す傾向が認められた(図6).これらのことは,有酸素系のエネルギー産生能力に優れる群は,運動期における有酸素系からのエネルギー供給という直接的影響と, 休息期における有酸素系のエネルギー産生能力によるATPよびPCrの再合成という間接的影響の両方の働きによって,ハイパワー運動中における乳酸系のエネルギーの動員を結果的に抑制することができるとした山本ら23)の報告と一致するものである.
上述の結果から,間欠的運動のローパワー運動中に高いVO2/BWを獲得できる能力が,間欠的運動の中盤以降における発揮パワーの優劣を左右する一つの重要な要因であることが示唆された.しかし,VO2max/BWとMean-LAに優れる群は,いずれもVO2/BWではほぼ同様の値を示しているにも関わらず,その相対値である%VO2maxに着目すると,VO2max/BWに優れる群が20セットを通じて約70%前後であるのに対して,Mean-LAに優れる群は約80%前後の高い値を維持している(図6).また,Peak-P/BWは,VO2max/BWよりもMean-LAと高い相関関係を示した(図5).さらに,被検者をVO2max/BWの優劣で2群に分けた場合よりも,Mean-LAの優劣で2群に分けた場合の方が両群間のPeak-P/BWの差が大きくなった(図6).これらのことは,Mean-LAに優れる群と劣る群との間には,VO2max/BWには差が無かったことを考慮すると,間欠的なハイパワー発揮能力に優れるためには,ローパワー運動中に高い酸素摂取量を獲得することが重要になるが,そのためには,単に最大酸素摂取能力を高めるだけではなく,最大酸素摂取量に対して相対的に高い強度で運動を行っても血中乳酸濃度を上昇させないような最大下の作業能力を高めることが重要になることを示唆するものである.
一方,本研究では,休息期に完全休息ではなくローパワー運動(体重×0.03kp×60rpm,55.7±6.7%VO2max)を行わせたために,ATP,PCrの回復率は低く,ハイパワー運動中に乳酸系のエネルギーに依存する割合は,セット数が進むにつれて徐々に高まったと考えられる.このことは,ローパワー運動(体重×0.03kp×60rpm)だけを20分間連続的に行った際のMean-LAの平均値が2.9±1.2mmol/lであったのに対して,インターバルテスト1の15セット目において,LAの平均値が8.7±2.1mmol/lに達していたことからも推察される.しかし,インターバルテストの成績と乳酸系のエネルギー産生能力の指標としたMean-P/BWおよびV(250ch)との間に有意な相関関係は認められず(図5,8),逆に,両指標に優れる群は劣る群と比較して,インターバルテストの成績がむしろ低い傾向が認められた(図6,9).本研究では,この原因を明示することはできないが,おそらく,間欠的なハイパワー発揮能力には,乳酸系のエネルギー産生能力そのものに優れることよりも,逆にハイパワー運動中に乳酸系のエネルギーの動員をできるだけ低く抑える能力,すなわち前述した有酸素系のエネルギー産生能力に優れることの方がより重要になるものと考えられる.このことは,間欠的に発揮されたハイパワー運動の成績と,その運動中の血中乳酸濃度との間に負の相関関係が認められたことからも推察される(図4).
しかし,フィールドテストに用いた250m方向変換走の速度の低下率を表す指標V(250ch-L50/F50)と,V(25ch)との相関係数は,セット数が進むにつれて徐々に大きくなる傾向が認められた(図8).また,V(250ch-L50/F50)の優劣で被験者を2群に分けた場合には,優れる群が劣る群よりも3セット目以降高い値を示す傾向が認められた(図9).%ST fiber,毛細血管密度,酸化系酵素活性(CS,LDH/CS,PFK/CS)などの骨格筋の有気的酸化能力に優れる者は,等速性膝関節伸展・屈曲運動における力の低下率が小さく,短時間(30~60秒間)の休息後におけるATPおよびPCrの回復率が高いことが報告されている.全身運動である250m方向変換走の速度の低下率を,上述した骨格筋の有気的酸化能力と直接結び付けることには問題があろう.しかし,V(250ch-F50/L50)に優れる群が劣る群よりも,全身の呼吸循環機能の指標であるMultiには差がなかったにも関わらずインターバルテストの成績に優れたことは,間欠的なハイパワー発揮能力に対しては,呼吸循環機能に加えて,筋それ自体の有気的酸化能力も重要な役割を果たすことを示唆するものと考えられる.また,毛細血管密度の高い者は,上述のように筋への血流量を増大させることによって,ハイパワー運動時に筋内で生じたH+をHCO3-系の緩衝能によって筋外へ拡散させることができるために,ハイパワー運動時に乳酸系のエネルギーが動員されても筋の酸性化を抑制することができる可能性のあることも考えられる.
本研究の結論として,間欠的なハイパワー発揮能力には,有酸素系のエネルギー産生能力,特に最大下の運動において血中乳酸濃度を上昇させない能力が大きく関与することが示唆された.したがって,球技スポーツのスタミナを高めていく場合には,ハイパワーの発揮能力そのものを高めるトレーニングと同時に,回復力としての有酸素系のエネルギー産生能力を高めるトレーニングが必要であると考えられる.
要 約
本研究では,大学男子ハンドボール部員19名(実験1),バスケットボール部員23名(実験2)を用いて,ハイパワー運動とローパワー運動とを組み合わせた間欠的運動中に発揮されたハイパワー運動の成績および生理学的な測定値と,個別に測定したATP-CP系,乳酸系および有酸素系の3種のエネルギー産生能力との関係について検討した.実験には,ラボラトリーテストであるペダリング運動(実験1)と,フィールドテストである方向変換走(実験2)を用いた.主な結果は次の通りである.
1.ATP-CP系のエネルギー産生能力は,間欠的運動の前半の数セットに発揮されたハイパワー運動の成績と,有酸素系のエネルギー産生能力は,中盤から後半にかけて発揮されたハイパワー運動の成績とそれぞれ正の有意な相関関係を示した.また,有酸素系のエネルギー産生能力の指標の中では,最大酸素摂取能力よりも,一定の負荷条件で運動を行ったときに血中乳酸濃度を上昇させない最大下の作業能力の方が,間欠的に発揮されたハイパワー運動の成績とより高い相関関係を示した.なお,乳酸系のエネルギー産生能力は,間欠的に発揮されたハイパワー運動の成績と有意な相関関係を示さなかった.
2.被験者を一つのエネルギー産生能力のみに差が生じるように2群に分けて,間欠的なハイパワー運動の成績を比較した.ATP-CP系のエネルギー産生能力に優れる群は劣る群に比較して,間欠的運動の前半の数セットにおいて有意に高い成績を示した.有酸素系のエネルギー産生能力に優れる群は劣る群に比較して,間欠的運動の中盤以降において有意に高い成績を示し,また,間欠的運動におけるローパワー運動中の酸素摂取量が高く,血中乳酸濃度は低い値を示す傾向が認められた.なお,乳酸系のエネルギー産生能力に優れる群は劣る群に比較して,間欠的運動の全体を通じて低い成績を示す傾向が認められた.
以上の結果から,間欠的運動の持久能力にとって,有酸素系のエネルギー産生能力が重要であることが示唆された.
文献省略









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